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越智康貴 越智康貴
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花と夢 vol.28

越智 康貴

花と夢 vol.28

越智 康貴

この記事は
・クリスマス雑記
・ショートBL『思い出なんかに』
・『花と夢』について
の3本立てでお送りします!


クリスマス雑記

『ブックサンタ』という企画があります。サンタの代わりに、購入した本を匿名で贈れる、というものです(届く先も知ることはないです)。
 ちょうど六本木で予定があり、蔦屋書店に寄って『ゲド戦記』を贈ることにしました。三十代になってから読んだ本なのですが、読み終わった後に「あぁ、子どもの頃に出会えていたらな」と思った本です。
 誰に届くかも、届いた先で喜ばれるかも、読まれるかもわからないのですが、ただ出会うということを無造作につくれるのであれば、それそのものが面白いな、と思って、半分、もしかするとほとんど全て自分の為の行いだったかもしれません。
 不思議なこと、目に見えないことが好きなので、時折自分からそっちに足を突っ込んでしまう癖があります。


『思い出なんかに』

 僕たちは裸足で野を駆け回った。
 やわらかな風が、たっぷりと水気をふくんだ葦を撫でて去った。
 彼は、ふるえる葦の葉を一枚だけ摘み、僕の左手を取って、薬指にゆるく結びつけた——素晴らしい思い出たちが走りまわる。

 失ったものは数え切れないほどあった。それらが美しいほど、苦しみは膨らむばかりだった。

「愛してほしかった」——彼の言ったことは、理解しがたいものではなかった。けれど、突然なにもかもがひっくり返り、僕たちは間違った関係を築き上げてきたということになった。
 まもなく、あの日の葦の指輪は、必要とされない関係にしがみつく僕を象徴するものとなり、僕は何をどうすべきかもわからないまま、ただ立ちつくした。行く先には素晴らしい人生が待っていると思っていたのだから。

 それからわずか数日で僕の前から姿を消してしまったものは、確かに"愛情"という名前をしていたはずだった。けれどいつの間にか、"執着"という名前に変わっていた。

 わかっていることがひとつある。
 やがて僕は、別の誰かの薬指に葦を結びつけ、象徴となってしまった思い出をゆずり、話を変えてしまうだろう。可能な限り素晴らしさを損ねて。

「愛してほしかった」


『花と夢』について

 企画開始当初に応募いただいた方々は、本当に、強烈に、大変にお待たせしてしまったのですが、10月末までにアンケートをご応募いただいた方々のものの制作が終わり、BRUTUS編集部の方と相談しながら配布の段取りをしています(メールが届かない設定になっている方はご注意を!)。
 この企画は、好き(嫌い)な花、その理由、生年月日と出生地を送っていただき、それに対してうらないを用いて、架空の未来日記を書く、というものです。
 それから、はじめの方にご応募いただいた45名分を一冊にまとめた本を制作しています。いま、2回目の試し刷りの到着を待っているところ。
 9月末までにご応募いただいた方々へは無料で配布をしようと考えていて、BRUTUS編集部からのメールに詳細が書かれる予定です(メールが届かない設定になっている方はご注意を!)。


突然の全身像

お読みいただきありがとうございます。
少しずつ更新します。
越智

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